研究概要 |
平等賃金の思想的系譜を研究して明らかになったことは、次の三つの論点である。 1.ジェンダーにもとづく不平等な賃金を合法化する理論の系譜は、性別役割分業思想の成立と「家族賃金」思想の成立と深く結びついていること。この点からみると、イギリスの古典経済学の流れの中でジョン・ステュアート・ミルが大きな位置を占めている。 女性は,家庭経営におけるパートナーであるとして、男性と人格的な平等理念を打ち出すとともに、家事労働を中心とした家庭経営に専念すべきであるという性別役割分業論をミルは展開した。そのために、女性の社会的労働への参加、つまり女性が賃金労働者になるということは、例外だとみなされることになった。 2.「平等賃金」という思想の系譜は、勿論、フェミニズム思想と結びついて生まれることになる。これは、女性の社会的労働への参加が例外でなく権利と認められる、つまり女性の労働権が認められるということが必要であるが、近代フェミニズム思想の展開の中で、この問題が自覚的に取り上げられたのは、19世紀末のシャーロット・パーキンズ・ギルマンの『女性と経済学』においてであった。 女性の経済的自立が、フェミニズム思想の中心に据えられ、家事労働の商品化をとおして、性別役割分業を乗り越えていく道を見通した。 3.「平等賃金」の実現にむけて、資本主義的な蓄積法則は、どのような道筋をへて進むか。労働力の女性化問題と結びつけて、そのもつ理論的、思想的意味を明らかにすることが必要である。「家族賃金」の解体、「日本型企業社会」システムの解体について、この「平等賃金」実現の見通しの中で、理論的に検討する必要がある。
|