研究課題
一般研究(C)
本研究は、社会的諸関係および生態系の下での「人間」把握のあり方、多様な人間の組織、社会諸組織と国家との関わりを含めた理論としての「生活経済思想」を、以下の三点を指標として発掘しようとするものであった。1.経済主体としての人間が、常に合理的行動をとるモデルとしてではなく、それ自体抑圧・搾取等の社会的諸関係に規定された不合理性を持ち、発達・組織しうる生身の主体として捉えられていること。この観点から、スミスのホモ・エコノミクスの本来の意義に立ち戻って検討を加え、マルクスにおける人間把握と人間解放の思想、制度学派やエコロジー経済学における文化や人間発達を射程に入れた「人間の経済学」の提唱も再評価を加えた。2.人間が生活し学習・発達・組織しうる「場」としての家族・共同体・アソシエーション・社会のあり方、ひいては人間の生活をとりまく自然環境をも、経済学の立場から捉えようとする思想であること。かかる観点から、ルミの協同組合論やウェッブの産業民主制論における、生産の自主管理と協同を通じての諸個人の統治能力の形成、という主張の再評価を行った。また従属論における社会構成体論や世界システム論の労働管理形態という概念装置は、まさに家族や共同体が資本主義世界システムにおいて果たす役割の理論化であると評価した。3.社会と国家の関係に関する独自の観点を提示するものであること。市場経済万能信仰への疑念は、ミルの社会改良論においてすでに現れていたが、これはマーシャル、ピグウ、ケインズらの、「市場の失敗」論すなわち国家の市場経済への介入を積極的に支持する理論に体系化されていった。この潮流はいわば福祉国家の理論としても評価されうる。また、グラムシの有機体的国家論批判と市民社会論からなる独自の国家論や、国家の介入が経済を歪ませ、個人の行動の自由を侵すこともありうると指摘したハイエクの思想もまた再評価の対象とした。
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