今年度行った作業の結果、以下の5つの知見を得た。 1.国別の所得格差の現状をアジア地域に焦点を当てて計測したところ、1980年代の後半に入ってから格差の縮小傾向が観察できることが確認できた。東南アジア諸国の高い経済成長によるところが大きいが、同時に円高が進んだため、日本の相対的な存在の大きさにはそれほどの変化が見られない。 2.国際比較統計は一般にドル表示されるため、国間の所得格差の計測では為替変動の影響が大きく出てしまう。従って、国際比較プロジェクト(ICP)で計測している購買力平価(PPP)を利用して再計測する必要が出てきた。 3.直接投資に関しては、予備的に雇用創出効果を計測した結果、対総労働力人口比で見てシンガポールでは7%ほどであり、かなり大きな値をとるが、タイ、フィリピン、中国、インドネシアでは1%未満であることが確認できた。 4.しかし、これは国際間の労働力移動と比較して同等かそれ以上の効果を持っていることを示す数値である。 5.相互依存経済をささえる日本の輸入依存性について専門家による講演を聞くとともに、直接投資の効果について意見の交換を行った結果、直接投資の雇用創出効果を測定する過程で、日本では経済効率の良い産業から生産現場を海外に移しているという問題が浮び上がってきた。規制によって日本の輸入依存性がなかなか高まらないことが大きく影響していることが実証的に確認され、日本経済の空洞化問題に新しい課題を提起していることが明らかになった。
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