今年度行った作業の結果、以下の6点の知見を得た。 1.国際間の労働力移動は一般に所得水準の低い国から高い国へと生じるが、その所得格差は近隣諸国間の相対的な差であり、必ずしも生活水準そのものの差を反映したものではない。 2.アジアにおいてはフィリピン、スリランカ、バングラデシュ、インドネシアの各国が外国へ出稼ぎに出るものが多く、その送金規模はスリランカではGNPの5%に及んでいる。 3.国内労働力人口の2、3%が海外へ出稼ぎに出るフィリピンでは送金によって国内の所得分配に大きな影響を与えており、送金に依存している家計の所得は平均的な家計の2倍前後にも達し、格差を作り出す要因の一つになるとともに、社会的な影響にも大きなものが見られる。 4.日本による直接投資について雇用創出効果を測定したところ、アジア諸国全体では100万人を超える。タイ、韓国、マレーシア等における規模が大きいが、労働力に対する相対的な大きさでは所得水準の高いシンガポール、香港で5%前後のシェアを占める。 5.直接投資による雇用創出は所得水準の比較的高い国の方が大きいので、所得水準の低い国に多く観察される海外出稼ぎとは逆の関係にある。 6.日本の政府開発援助については、所得水準の低い国に対して行われており、所得格差の是正に貢献していると思われるが、日本と並んで援助額の多い米国は中所得国に集中する傾向がある。
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