本年度は、前年度の研究成果に基づき、中東欧三国における商業銀行の民営化問題について、代表的な商業銀行(ポーランド-一般信用銀行PBK、ハンガリー-ブダペスト商業銀行KBB、チェコーチェコ商業銀行CKB)の民営化過程の実態調査を実施し、商業銀行の民営化過程が国営製造業(ポーランド-自動車製造FSO、ハンガリー-食品加工TEP、チェコ-自動車製造SKODA)のそれへどのような影響を及ぼしているのかについて、理論的に分析・検討した。その際、とくに、商業銀行側から見た(1)貸出資金と担保能力の関係についての審査、(2)国営企業の経営財務と資金借入との関係についての計画内容、(3)商業銀行による資金貸出と国営企業のリストラ業務との関係という三点に焦点を当てて、国営企業の民営化・リストラの推進に商業銀行がどのように関わっているのかを分析した。 現地での実態調査は、(数度の書簡連絡を経て)平成7年10月-11月、12月と二度にわたって実施した(補助対象外)。この結果、(1)については、担保能力を有する金融・実物資産の鑑定評価が商業銀行による審査にとって最重要の要素となり、これに関しては、外国(欧州・米国・日本など)の投資信託会社が大きな役割を果たし、その評価結果を活用していること、(2)については、国営企業の旧社会主義時代での未返済債務の評価が難しく、借入資金の大半が新規の設備・機械投資、人材養成に使用され、既存設備・機械の補修・修理などが先送りされていること、(3)については、調査対象企業では、民営化とリストラの同時遂行が行われる一方で、経営陣、ホワイト・カラー層、ブルー・カラー層のいずれにおいても、商業銀行の指導・監督の下に人的資本の蓄積が進みつつあること、といった点から明らかとなった。 なお、本研究成果は、平成8年5月末開催の比較経済体制学会(於:立命館大学)での共通論題「国有企業改革の現状と課題」で詳細に報告する。
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