本研究では、中東欧三ヶ国(ポーランド、ハンガリー、チェコ)における商業銀行の民営化過程について比較分析を行い、次のような三つの点を明らかにすることができた。第一点は、ポーランドにおいてのみ、資本の民営化(間接の民営化)が個別民営化と大衆民営化に区分されている。ということである。民営化証書(バウチャー)方式を中心とする大衆民営化を主要な手法とするチェコにおいても、また、個別民営化を主要な方式とするハンガリーにおいても、ポーランドよりも、民営化速度は速かった。しかし、経営の再構成という観点から言えば、ハンガリーとポーランドの民営化方式の方が有効であることが明らかとなった。第二点は、商業銀行の民営化過程では、ハンガリー、ポーランドは、いずれも外資系金融機関への株式売却(過半数を越える場合が相当数に達する)による経営権の委譲を通じて、再編成(リストラクチャリング)の実施を目指すという基本型が明瞭に見られることである。これは、国営・国有株式会社の商業銀行をEUへの正式加盟の時点までに競争力を急ぎ高める最短の道として選択された方式である。第三点は、ハンガリー、ポーランドでは、EU加盟基準の達成という絶対目標を、商業銀行を含めた旧国営企業の経営再編成への強力な「外圧」として活用し、積極的な外資導入を通じた急速な構造転換を図りつつある、ということである。1990年代後半になって、ハンガリーとポーランドで顕在化した外資導入と民営化、経営再編成の推進という民営化政策の基本姿勢は、他の旧東欧諸国での民営化過程を分析する場合にも、旧ソ連諸国のそれを分析する場合にも有力な視座を与えるものとなろう。 このように、本研究では、EUへの正式加盟交渉過程の行方が中東欧三ヶ国における民営化過程、ひいては経営再編成の過程に対して最も強力で最重要の影響を及ぼす要因となることを明らかにした。
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