現在、世界的に電力・ガス、上・下水道、通信・放送、鉄道・航空等の公益事業が民営化と規制緩和の対象となっている。従来これらの分野は「自然独占」と考えられ、企業間競争が意図的に回避されてきた。しかし、近年の技術革新の進展や供給形態の変化により、競争の機能する状況が徐々に出てきている。大規模な既存企業を地域的に複数に分割したり、事業内容の異なる分野を分離する方策は競争を機能させる上で不可欠である。1社独占を保持してきた企業は企業分割により競争に直面するので、効率性インセンティヴが改善される。潜在的参入者にとっては参入障壁が低下し、資源配分の観点からも企業分割は重要と言える。 競争のメリットとして利用者は供給者の選択が可能になるだけでなく、価格低下の恩恵を享受できる。しかし、公益事業への競争導入は供給責任の問題を生じさせる。イギリスの電力における発送電分離と発電市場でのプール・システム、鉄道における「上下分離」と旅客サービス部門でのフランチャイズ方式は企業分割と供給責任の分析に有用である。本年度はこれらの業種における企業分割の手法と競争導入後の政府規制についての考察を深めている。利用者の利益を保護するためには必ずしも競争原理だけが万能とは言えず、政府の規制が必要と考えられる。規制の形態や程度は事業ごとに異なるが、それぞれの市場における独立的規制機関の設立によって独自の問題が円滑に解決される方向にある。供給責任の問題を含め、既存企業と新規参入者の間での競争条件の整備が政府省庁との規制機関との協議の中で進められている。しかし、現実の市場において企業間競争がどのような形で展開されるのか、その効果がいかなる経路でどの主体に及ぶのかは、まだ明らかになっていないのも事実である。今後、公益事業の変容を総合的に検討し、事業別に求められる規制内容を解明していく予定である。
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