公益事業の民営化・規制緩和を進める過程で企業分割を採用した実例としてイギリスの電力事業と鉄道事業をあげることができる。イングランド・ウェールズの電力事業で、発送電を垂直統合していた国有企業に対して分離・分割措置が講じられた。発送電分離と発電3分割に基づき民間の発電会社2社と送電会社1社が誕生した。原子力発電は依然、国有企業である。配電事業では国有の12地区配電局が民間の12配電会社に移行し、企業間で成果を比較するヤードスティック競争が導入された。企業分割に加え参入自由化が実施され、複数の発電会社からの電力は「プール・システム」を通して配電会社に販売されている。法的には配電会社が供給責任を負っているが、発電会社が電力供給を停止した場合には配電会社は窮地に立たされる。電力民営化と歩調を合わせた石炭民営化、及び民営化が予定されている原子力発電を視野に含めて、発電側の果たす供給責任の役割を明確化する必要がある。更に、配電事業で展開されているTOBが競争促進や料金設定に及ぼし影響を慎重に考慮しなければならない。 鉄道事業では国有企業であるブリティッシュ・レイルが独占状態にあったが、政府は「上下分離」というドラスティックな措置を講じ、民営化を促進している。「上下分離」はインフラ事業と列車運行事業を別会社にする方策であるが、イギリスでは更に車両リ-ス事業が区別されることになった。列車運行に関しては業務別、路線別の競争入札に基づき、民間企業が経営権を取得する「フランチャイズ」方式が導入されている。インフラ会社が計画通り民間企業に移行すると、列車運行会社が支払うインフラ使用料の上昇を招くだけでなく、インフラ整備に長期的観点が欠如する危険性がある。不採算路線であった列車運行事業への入札者が出現する見込みは高くない。供給責任はフランチャイズ契約で明確にできるが、鉄道ネットワークの崩壊を回避するためには、公的資金の提供が不可欠となっている。
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