「公益事業への企業分割の適用と競争導入後の供給責任に関する研究」というテーマのもとで、以下のような点を調査した。(1)イギリス公益事業(通信・ガス・電力・水道・鉄道)における民営化と規制緩和の背景と実態。(2)イギリス電力事業(配電部門)におけるテイクオーバーの増大と業界再編成の進展。(3)イギリス電力事業の分割・民営化と規制緩和の推進が石炭産業に及ぼした影響。(4)イギリス鉄道事業における「上下分離」とフランチャイズ(競争入札)による民営化プロセス。(5)競争促進を指向するイギリス公益事業が直面している課題と日本への示唆。 ネットワークに基づいてサービスを供給する公益事業ではパイプラインや軌道部分とその他の部門を分離する方向が取られている。電力では「発送(配)電分離」、鉄道では「上(中)下分離」といった特殊な用語が使用される。電力ではグリッドと呼ばれる送電線網が、鉄道ではトラックにあたる線路が自然独占と判断される。それら以外の発電事業や電力小売供給事業、車両リ-ス事業や旅客列車運行事業等には競争導入が可能と考えられる。この発想は他の公益事業にも適用することができる。 イギリスではガス、電力、鉄道事業において既存企業の企業分割が実施され、新規参入者が自由にネットワークにアクセスできる環境が整備された。通信でも会計分離が導入され、参入者に対して公正なアクセスが保証されている。公益事業の改革は競争促進の観点から進められ、企業間のM&Aの監視やプライスキャップによる価格規制が重視されている。しかし、供給責任に相当するユニバーサル・サービスを確保する方策は軽視されてきた。垂直的な企業分割を採用し、一貫したサービス供給体制が崩壊した時に、事業者や公的組織による基金創設によってユニバーサル・サービスを維持する措置が必要となる。
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