本研究は、学校教育に携わる全国小中高校の教職員を対象とした生活時間調査のデータを素材として、その中での授業以外の様々な教育関連業務の多様な存在に特に注目しつつ、これらの業務関連時間の量的・質的広がりが教育労働者の個人的・家庭的生活にいかなる影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目的とした。これらのデータのうち、公立小中高の男性教員の1週間の労働時間をみると、平均56時間01分となっており、総務庁「1991年 社会生活基本調査」による日本の男性雇用者の1週間の平均労働時間と比べると、5時間近く長い。注目すべきは56時間01分のうち6時間32分は学校外における「労働」時間であり、そこでは「授業の準備・事後処理」(2時間37分)の他、「自主的研修・研究」や「学級経営にかかわる仕事」が大きな割合を占める。一方、学校内における労働時間は49時間29分となり、本来の所定労働時間である44時間を大きく上回っている。結局、授業の他に、生徒指導や部活動指導、学校行事、実務処理あるいは授業の準備・事後処理や研修・研究等、労働に関連する諸行動が学校内での残業や休日出勤と自宅での生活場面への浸透の両面に広がっており、これは、睡眠を含む生理的生活時間の削減や「余暇」時間を含む社会的文化的生活時間の切り詰め、家事・育児時間の削減等に結果することになる。一方、女性教員の場合、男性より2時間ほど週間労働時間が短くなっているものの、家庭における家事・育児の主たる担い手であるものが多く、家事・育児の時間は物理的に切り詰めようがなく、従って、労働と家事のいわゆる「二重負担」が顕著となり、睡眠時間や社会的文化的生活時間は男性に比べてより大きく切り詰められることになる。その結果、女性教員の中には、健康面での問題の所在を示すものが少なくなかったばかりでなく、以上の諸問題の集約的な結果としての勤務継続の困難の発生も示唆された。
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