本研究計画は、文献資料に依拠しがちな中国社会経済史研究において、契約文書という第一次資料に基づいて近代中国、特に江南地域の農村社会の実態を解明しようとするものである。本研究計画は、契約文書の調査・収集、パーソナル・コンピューターへのデータの入力、データの分析の三段階に分れている。資料の調査・収集では、日本の各大学・研究機関を調査し、資料の収集を行うと共に、『徽州千年契約文書』等関連する書籍を購入し、江南との比較対照に資した。また平成八年には、中国蘇州大学を訪問し董蔡時、単強氏と蘇州地方の契約文書の収蔵状況について情報を交換すると共に、蘇州市博物館、蘇州市〓案館、呉江市〓案館を訪ね、資料の一部を拝見した。中国において予想以上に農村関係文書が保存されており、今後アメリカの分を合せて総合的に分析する必要を感じた。資料の入力では、土地売買、租佃契約等の農村関係文書について売買価格、回贖条件、租額、小作条件等の約40項目について、約800件のデータ入力を行った。今後これらのデータをより拡充していくと共に各個別の項目について分析を行いたい。この入力した一部の項目である租額と小作条件について、租桟関係簿冊と対照を行い、蘇州・常熟・無錫・武進・嘉興の五地方について一畝当りの租米額を中心に数量的分析を行ってた。また、これら文書資料と文献資料に基づいた個別分析として、辛亥革命前後、及び1920年代の国民革命時期から南京国民政府成立時期の蘇州の租佃関係の変化と国民政府が実施した「二五減租」を問題について三編の論文を発表した。この研究成果に基づき、今後は次の二点を行いたい。(1)日本ばかりではなく中国・アメリカに収蔵されている同様の文書資料を調査・収集し、比較対照を行いたい。(2)これを基に契約文書、租桟関係文書、農村調査資料、新聞雑誌等文献資料を総合した。近代全体を通じた江南農村の実態と変化を解明したい。
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