(1)世界恐慌期における職員層の社会運動を、ブリューニング内閣のデフレーション政策への職員諸団体の対応、景気浮揚を目的としたそれら諸団体の反循環的経済政策を中心に考察し、それを労働者運動と比較した。さらに、そうした職員や労働者の運動への諸政党の対応を分析し、ナチスがその社会的支持基盤を被雇用者諸階級の間に拡大しえた理由についての手掛かりを得た。 (2)世界恐慌を契機に展開していく国家と経済・社会との新たな関係のありかた、特に国家による経済と社会の組織化を理解する前提として、一方では1920年代の諸利害の自己組織化の実態を分析すると共に、地方では「国家の優位」が、1920年代にはいかなる形で準備されつつあったかを検討した。 (3)両大戦間期の新興産業の発展については、とくに設備投資に関する「景気研究所」の調査資料、および自動車、化学、電機などの個別分野の調査報告書、また貿易に関する長期的な調査資料などに即して分析した。その際には、とりわけ産業構造の転換の、この時期における限界の側面に焦点をあてて分析し、とくに大恐慌以前の時期における金融政策の問題性を明らかにした。 (4)戦後資本主義経済システムへの転換過程において、とりわけ世界恐慌が有する意義をとくに重視し、1920年代中央以降に行なわれた経済政策・経済秩序をめぐる論争の丹念な分析を通じて、そこから戦後の「社会的市場経済」に結びつく政策思想の萌芽を摘出した。カッセル論争といわれるこの両大戦間期ドイツ経済史を理解する上で決定的な意義を有するこの経済論争の内容は今回の研究によって初めて明らかにされた。
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