本研究の目的は、戦前期に南満州鉄道株式会社調査部等が実施した、中国華北地方の農村調査である『冀東地区農村実態調査』を分析し、近代中国農村社会の構造的特徴を整理し、改めて日本の植民地支配との構造的関係を明らかにするものである。特に日本帝国主義の中国農村支配において傀儡的役割を果たしたとされる「中華民国新民会」に焦点をあて、関係者へのインタビューにもとづき、その実態を明らかにすると共に、関係資料の収集及び整理を行うことを中心課題とした。 そこで「中華民国新民会」関係者へのインタビューを試みたが、中心的活動をしてきた関係者の多くは既に故人となっており、また生存する者ももはや高齢で充分に対応できない者もいたが、幸い複数の関係者から証言を得ることができたので、研究代表者が近年中国で実施した農村調査と事実関係の照合を図ることができた。さらにに購入したパソコンにより『冀東地区農村実態調査』に掲載されている数値資料を中心にデーターベースの作成にとりかかった。また『黄土に挺身した人達の歴史』等「中華民国新民会」関係の記述がなされている関係資料や、『中華民国史史料長編』や県志などの地方志等の基礎史料を購入し、その分析を行った。その結果農民の結合を中心とした華北農村の構造的特質が、抗日運動や内戦期における共産党勢力の活動に大きな影響を持っていたことが明らかになった。今後中国での農村調査の結果と合わせて検討してみれば、従来の中国革命像とは異なる農村社会像が描くことができると確信している。
|