本研究の目的は、ドイツに焦点を合わせながら戦後ヨーロッパ経済空間の統合と分化との緊張関係を総体的に把握することにあり、以下のような具体的な成果を生みだすことができた。 1.まず、EUの地域政策(とくにInterreg)とエウレギオ(Euregio)に関する分析作業により、ライン河水系を軸とする原経済圏のそれぞれの輪郭を、部分的にではあれ確定することができた。 2.エウレギオの一つ、COMREGIO(Kommnale Arbeitsgemeinschaft der Groβregion Saar-LorLuxRheinlandPfalz)の分析の進展により、モーゼル・ザ-ル原経済圏の検出に成功しえた。もって、ライン河水系を川河軸とする諸原経済圏の分布を解明できたことは、ヨーロッパの統合過程に伏在する地域問題の歴史的独自性を把握する上で、重要な意義を持つ。 3.1995年のオーストラリアのEU加盟は、ヨーロッパの東西軸としてのド-ナウ河の地政学的重要性を復活させた。その結果、ヨーロッパの南北軸としてライン河との相互作用が、ヨーロッパの統合過程に複雑な影響を及ぼすことになった。この観点から、マイン・ド-ナウ運河の建設に当たってきたライン・マイン・ド-ナウ株式会社(RMDミュンヘン)の経営史的分析を一層深め、ヨーロッパ統合過程分析に新しい視点を導入することができた。また、水力発電所の建設、経営にも当たるRMDの企業・経営形態分析を通して、ヨーロッパ統合過程の一局面としてのエネルギー供給網構築過程を明らかにすることができた。 4.ヨーロッパ統合過程において生みだされた多様な領域・非領域経済空間に総点検を施し、また、ライン河上流・下流域をそれぞれ代表する多国籍企業の立地政策の分析を通して、「本来の経済地域」の多元性の下での原経済圏の位置を明らかにすることができた。
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