本研究の課題は、近代日本の農民家族について基礎的実証研究を深め、農民家族についての総合的な把握を試みることにあった。とくに従来、家族史研究に利用されることの少なかった小学校史料や壮丁調査を用いることで、青年層と家族のかかわりを就業・生活・教育などの各方面から検討することが可能になった。3年間の研究結果、以下の成果をえた。 近代日本における農民家族のあり方は、明治中後期と第1次世界大戦後、日中戦争から太平洋戦争にかけての時期の3つの時期に大きな画期をもつと考えられる。商品経済が浸透したものの、家族経営は自給経済の色彩をまだ強く残していた明治中後期、生活水準も上昇して農民の意識と農民家族のある方が大きく変動した第1次世界大戦後、軍隊や軍需工場に男子農業労働力が流出して農民家族のあり方が大きく変わった戦時期である。この中で、従来の通説とは異なり、第1次大戦後には農村青年の社会移動が存外に多く、相続や結婚、就業をめぐる農民家族の変化が早期に始まっていること、さらに戦時期には軍隊や軍需工場に戸主や長男まで含めた男子農業労働力が流出して、農家女性を主体とする職工農家が出現し、農家の継承や結婚をめぐる農民家族のあり方が一段と変化したこと、などが明かになった。以上の成果については、明治期の農民家族に関して「農民の生活の変化」(『講座世界史』第4巻、東京大学出版会、1995年9月)を執筆し、戦時期については、1995年10月29日に開催された土地制度史学会秋季学術大会の共通論題「第2次大戦期の日本資本主義」において共同報告「戦時労働力の給源と動員」を行い、その原稿を『土地制度史学』(151号、1996年4月)にまとめた。また山梨県南部都留郡西桂村の兵事関係史料(壮丁調査)を用いて、戦時期の農民家族の変化を分析した原稿を執筆した(未発表)。
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