歴史的な視点からすれば、いわゆる日本的な雇用慣行は、もともとホワイトカラー層にみられた雇用関係がブルーカラー労働者にまで拡延したことによって生じたとみることができる.ところで、執筆者の当初の計画では、こうした〈ホワイトカラーからブルーカラーへ〉の雇用関係のシフトをもたらした要因は、もっぱら戦後の労働運動にあると想定されていた。こうした仮説は、研究の過程で一部実証されたが、しかし視野が狭すぎたことも明らかとなった.そこで本年度は、こうした見方を再検討するなかで次の2つのテーマにとりくみ、一定の成果をあげることができた。第一は、雇用関係のあり方を企業システムというより大きな枠組のなかに位置づけ、しかもこれを使用者=財界のサイドから考慮するという作業である.これは、具体的には経済同友会の企業民主化論の分析という形で行われ、岡崎哲二・西沢保・米倉誠一郎との共著として刊行された。第二は、視点を雇用関係の当事者からさらに広げて、企業の外部環境、とくに労働市場の制度的側面に注目することである.その成果は、戦後の新規学卒労働市場の変容をテーマとする、苅谷剛彦・石田浩・西村幸満・村尾裕美子との共同研究として第48回日本教育社会学会大会で発表され、近く刊行される予定である.
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