本研究は、第1次大戦前後から石油ショック前後を主たる対象時期として、当該期の日本経済をリ-ドした大企業に焦点を合わせ、その企業構造並びに行動特性と、以上の大企業から構成される企業集団の機能の史的分析を課題とした。具体的には、企業の統治構造(エイジェンシー関係、情報構造、誘因体系)と経営者の組織能力の形成の2点に分析の焦点を定め、対象時期を、1)戦間期(第1次大戦期から37年まで)、2)戦時期、3)戦後改革期、4)高度経済成長期(55年前後から73年)、5)石油ショック後(ポスト高度成長期)の5期に区分した。 研究の初年度にあたる平成6年度は、データベースの作成に注力し、まずデータが比較的利用しやすい高度成長期の分析から着手した。作業は、比較的順調に進展し、年度後半からはそれもとに高度経済成長期の投資行動の計測を試みた。その成果の一部は投資に対するキャッシュ・フローの制約に視点を置いて企業集団の投資促進機能を分析した論文として公刊された。平成7年度は、前年度の作業を前提に、戦時、戦後改革機の企業データの収集とそのコンピュータへの入力に力点を置き、とくに経営者の交替に関するデータの収集に多くのエネルギーを投入した。その成果は、戦時から戦後改革期、さらに高度経済成長期における経営者層とコ-ポレート・ガ-バナンスの変化の検討した論文にまとめられたすでに公刊された。最終年度あたる平成8年度は、これまで戦時・戦後改革期について一定の前進をみたことを前提に、まずポスト高度成長期、つづいて戦間期の順に企業の統治構造の把握にとって重要な指標、企業経営の基本的な指標、及び企業集団に関する指標に関する独自のデータベースを作成・充実させ、これをもとに分析を進めた。主要な成果は、1))高度成長から石油ショック後の時期について、企業経営者の交代と企業のパフォーマンスの相関分析(probitモデル)を試み、状態依存的コ-ポレート・ガヴァナンスの歴史的変化を変化を追跡したこと、2)前年度も試みた流動性制約に注目した投資関数の計測を試み、その成果の一部を日本企業システムの歴史的変化を扱った論文に反映させたこと等である。ただし、3)本年度秋以降から着手した1937年の上位100社を母集団として戦間期のデータベースの作成は、三菱経済研究所「本邦事業成績分析」が利用可能な1931年依然のデータ入力に多くの努力を必要とし、本年度中に完成にいたらなかった。今後データの充実・改善をすすめ、本研究の成果として公刊を期した。
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