本年度の研究課題として、次の4点を予定していた。第一は、住宅組合に関する基礎情報のデータベース化の精度をさらに高めることで、これによって平成5年以来の作業が一応完結した。基礎情報の質と量が限られているために、所期の目的が完全に達成されたとはいいがたいが、住宅組合の種類や規模別、あるいは住宅組合の立地する地方別に、19世紀末以降の住宅組合の性格変容にかなり明確な偏差を見いだすことができた。第二には、『住宅組合・土地会社雑誌』の記事・論説の分析を両大戦間期まで延長させることであるが、平成7年夏に予定していた資料収集のための渡英が実現しなかったため、この課題については実行することができなかった。第三には、「リ-スホウルド解消協会」の年次報告の分析を通じて、この「協会」と住宅組合運動との接点を明らかすることである。上記したように第二の課題がやり残されたため、この課題についても不十分にしか実行できなかったが、持ち家居住の促進という共通の大目標で両者は一致していたにもかかわらず、支持母体を形成する階級の点でかなり顕著な違いがあったこと、にもかかわらずそうした違いは今世紀に入るにつれて急速に消滅する方向にあったこと、このような興味深い事実を明らかにできた。第四には、地方政府庁の「年次報告」の分析を通じて、公営住宅政策の初期における住宅組合の位置づけを明らかにする課題であるが、これについては、主として所得税制上の特典が住宅組合会員に与えられた過程を確認することはできたが、個々の住宅組合の会員層の変化や、貸付対象の変化と言った点と具体的につきあわせるまでには至らなかった。総じて、実質的には平成5年以来継続的に行われてきた本研究の成果は、本年春には一書に纒める予定であったが、昨年の阪神大震災によって受けた被害(住宅の半壊等)の復旧が予想以上に遅れたため、遺憾ながら1年間の延期を余儀なくされたことを申し添える。
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