本年度の研究によって以下の知見を得た。1.投資資金を留保で調達した場合の配当課税の効果に関するNew viewとold viewについて。(1)両者の基本的な差異は資本市場の不完全性と配当のnon tax benefitの捉え方にある。(2)old viewによる配当のnon tax benefitの定式化はアド・ホックであるが、資本市場における情報の不完全性を重視する立場自体は本研究にとって参考となる。(3)わが国の法人企業も投資資金の大半を留保によって調達している。しかも法人持ち合いの株式保有構造である。この場合、投資を留保で調達する「配当の二重課税」問題が生じるのか、どうか、また生じる場合の実現的重要性について綿密な検討を要する。今後の課題としたい。 2.法人税と個人所得税の統合問題に関する米国財務省報告について。(1)同報告が最も重視する現行税制の弊害は、法人企業がequity調達より借り入れに多く依存し、マクロ的にみて景気循環リスクに対応できにくい財務構造を形成していることである。(2)同報告が結論づけたcbit法という統合方式は、配当税を現行より軽課しつつ利子税を強課して(1)を解決しようとする方法である。他方インピュテーション法は利子税負担を現状のままにして、配当税の軽課をめざす。同報告がcbit法を推薦し、インピュテーション法に反対した理由は、利子税強課による借り入れ抑制を企図したからであろう。(3)日本の法人企業の方が借り入れ比率が高い。しかし、わが国の場合、メイン・バンク制を中核とする銀行借り入れが主であり、個人借り入れより効率的な資金調達方法といわれる。したがって利子控除制が引き起こすといわれるディストーションについても、わが国法人企業の財務構造の経済的特性をふまえて分析しなければならない。
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