本研究では、経済構造のサービス化と情報技術革新の進展という環境のもとで、産業精神衛生についての人事労務管理上の対応課題を解明することを目的とした。具体的には、日本及び欧米諸国における理論的研究のサーベイを行うとともに、企業ならびに関係機関の取り組みについてのヒヤリングを行なってきた。その結果得られた知見は次の通りである。 1.自律した個人主義的価値理念や専門的職業人としての確固としたエ-トスを持たない日本の平均的な勤労者にとっては、リエンジニアリングやCALS等、情報化システムの導入による事務処理業務の合理化が産業精神衛生にもたらす影響はきわめて大きい。 2.上記の問題に対する企業の認識は、基本的に従業員福祉の枠の中でしか捉えられておらず人事労務管理諸施策と連動した取り組みを行っている企業はいまだ少数にすぎない。 3.産業精神衛生についての労働組合の取り組みは、一部の例外的事例を除くとまだきわめて不十分である。他方、近年健康保健組合がこの問題に積極的に取り組み始めていることが注目される。産業カウンセラ-等の専門家の人材養成はまだ不十分な状態にある。 4.社会経済生産性本部メンタルヘルス研究所等の専門団体では、職場不適応者に対する臨床心理的なアプローチというような従来型の領域に加えて、職場コミュニケーションの改善、キャリアカウンセリングなどの領域にも産業精神衛生関連諸施策を実施する動きが拡大している。
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