平成6年度、7年度の研究成果をまとめたものが本報告書である。本報告書の目的は企業と社会の双方でこのところ関心を集めてきている経営倫理ないし、企業倫理の問題について、経営学的視点つまり理論と政策の視点から考察することにある。経営倫理問題とは、「企業ないし経営者の社会的責任」なる経営学研究上の基本問題の今日的展開であり、ここから本報告書は具体的には、現代の企業が対応を不可欠としている社会的責任の問題に焦点を当てつつ、かかる社会的責任の今日的な特質と課題の解明および責任指向的企業経営の具体的あり方を提示することを意図する。そして、企業の社会的責任がその市場権力をめぐる企業の責任およびその経済的生産活動から派生する企業の責任に止まらず、いわゆる社会貢献への責任および、市場競争の下での企業維持の責任をも含むようになっていることに留意するとき、すなわち社会的責任は経済的非経済的な諸責任のすべてを含むようになった総合的責任として理解しうることに留意するとき、そして更には、かかる総合的責任を果たすための経営戦略の形式に係る企業環境は市場と社会の双方を含むようになっていることに留意するとき、上のような本報告書の具体的狙いは社会的責任・経営倫理の切り口からこれからの企業経営について論じることを、ひいては、企業の社会的責任なる問題を経営学研究の中心的考察課題としつつ経営学研究の体系的再構築をはかることを意味する。 以上のような趣旨の下で展開される本報告書は、社会的責任問題への考察を中核とする経営学原理の展開のための基本的枠組を提示しようとするものであり、これからの経営学原理の方向を具体的に示そうとするものである。
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