金融機関を中心に、わが国で支配的な株式の相互持合関係をデータベースを利用して調査し、企業間関係を系統的に分析した。そして、この企業間関係が融資先企業の研究開発政策、配当政策など、経営政策の実質面にどのようなインパクトを与えているかを実証的に検討し、多数の新しい知見をえることができた。これにあわせ、会計政策への影響を追跡し、会計方法の変更など、日本企業の裁量的行動に対する影響をかなりの程度まで明らかにすることができた。 日本企業の経営者は、予想される会計利益が「過大」なのか「過小」なのかを強く意識して、それが「適切な」水準に落ちるように、期中に研究開発投資などを変更する傾向が強い。また、業績が悪化して配当が困難になっているにもかかわらず、「安定配当」を維持するためにあえて「益出し」を行ったり会計方法を変更したりして、これによって追加的に法人税を支払うこともある。こうした裁量的な経営者行動は合理性を欠く「日本的な」特殊性と誤解されやすいが、取引先金融機関にからめて分析してみると、合理性に貫かれていて、国際的に通用する側面をもっていることがわかる。この点は、取引先金融機関との関係を代表する変量を回帰分析の説明変数に加えるなどによって今回の研究で実証的に明らかにしえたことがらである。
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