何が貸借対照表に計上されうるか、誰の貸借対照表に計上されうるか、従って、どのように資産と負債を定義して認識するかの問題について、まずは、ドイツの会計制度に規範を求めて、さらに、日本およびアメリカの会計制度も比較して、貸借対照表計上能力のメカニズムを分析すること(1年度)、同時に、会計制度の国際化に備えた調和化の方向を模索すること(2年度)を意図している。 本年度は、貸借対照表計上能力の史的変遷について、すでに、会計制度の基底にある静態論、動態論を解明してはいるが、改めてこれを検討することから開始した。さらに、貸借対照表計上能力画定メカニズムについては、すでに、対象問題、帰属問題として解明してはいるが、ドイツ商法に「貸借対照表に計上しなければならない」と規定される計上義務、「計上してはならない」と規定される計上禁止に加えて、「計上することができる」と規定される計上選択権、従って、貸借対照表に計上するかどうかの自由裁量が付与されるだけに、これにいかに歯止めを掛けるかの選択権問題を解明して、これを検討することに集中した。対象問題、帰属問題をいかに解決しえたにしても、選択権の行使によっては、こうしたことも徒労になりかねないからである。ドイツ商法、ドイツ株式法の経緯を跡付けながら、選択権問題を解決しうるメドは引出した積もりである。また、この選択権問題こそが会計制度の国際化に備えた調和化の鍵にもなることを解明したが-国内化選択権から国際化選択権への転開-、これについては、いまからの思索に頼らざるをえない。 研究業績は、前年度に公表した論文に続いて、論文「貸借対照表能力と選択権」、「貸借対照表能力の実相」としてまとめを完了している。全体の成果としては、著書『貸借対照表能力の研究-その史的変遷と画定メカニズムについて-』を公刊している。
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