研究概要 |
まずウェイト付きコンパクトリーマン多様体の間の「スペクトル距離」をその熱核に注目して新しい導入し、与えられたウェイト付きコンパクトリーマン多様体の族が、スペクトル距離に関して、全有界となるための緩やかで自然な条件を与えた。さらにその極限として一般に連続な推移密度関数(熱核)をもつ正則ディリクレ空間が現れることを示した。-(1)リッチ曲率が一様に下から押さえられた族;(2)正の山辺不変量をもつリーマン多様体の共形類;(3)有界な平均曲率をもつ部分多様体の族;(4)与えられた二つのリーマン多様体を底とファイバーにもつリーマン沈め込みでファイバーがすべて全測地的であるものの族、など。 (1)については、極限に現れる正則ディリクレ空間は、強局所型、つまり拡散型であることを示し、さらに熱核の漸近挙動を調べた。(2)のクラスでは、所謂“bubbling-out"現象に対応する典型的例を構成した。このことは、微分方程式,変分問題二関する解析学の立場から,一つの多様体と測度を固定して研究されてきたデリィクレ形式の収束理論(ガマン収束、レゾルベント収束の理論)では、捕らえられないものであり、スペクトル距離収束のひとつの特徴,応用の可能性を示唆している。(3)のクラスでも同様の結果を示した。これに関連して,位相的に複雑になっていくスペクトル距離収束例を構成した。それから(4)のクラスは、接続の理論・群作用の理論と密接に関係しているが、これを含めて、一般に極限に現れるディリクレ空間の解析は今後の課題である。とくに(1)のクラスのもっと精緻な解析を実行することによって、リーマン多様体の収束理論とリッチ曲率に関する基本的問題の解決に貢献できることを期待している。
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