本研究では、多様体上の力学系の性質を古典および量子力学両面から考察しその関係を研究した。 1.リーマン多様体上の測地流は、余接バンドル上のハミルトン力学系であり、それに対応する量子力学系はラプラス-ベルトラミ作用素であると考える。このとき、ラプラス-ベルトラミ作用素の固有値分布と測地流の力学的性質の関係を考察した。特に、べき零多様体における計量の等スペクトル変形を古典力学系の構造との関係に注目しつつ研究した。その結果、 (1)もとの力学系を簡約化によって分解すれば、ある種の(Gordon-Wilsonによって与えられた)等スペクトル変形の下で、それらの古典力学的構造は不変に保たれることが明らかになった。 (2)(1)の結果を「量子化」することによって、ある種の等スペクトル変形がラックス(Lax)方程式の形で与えられることが明らかになった。このことは、量子力学的構造が不変に保たれることを意味する。 2.磁場の下での荷電粒子の力学について、古典論および量子論両面から考察した。幾何学的には、磁場はある主バンドル上の接続(およびその曲率)とみなすことができる。そして、対応する直線バンドルの切断(section)が量子力学的状態を表す。また、古典力学的には、変形されたシンプレクティック構造をもつハミルトン力学系とみなすことができる。このような定式化に基づいた古典、量子力学系の関係について、特別の場合にその一端は上記1の研究の中で明らかにされた。しかし、一般的な問題設定での研究は今後の課題である。
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