研究概要 |
ユークリッド空間内の開集合で定義された実数値係数を持つベクトル場X_1,・・・,X_pから生成される偏微分作用素P=Σa_α(x)X^αに対して、解の構造についての基本的諸問題をベクトル場{X_j}とそれに応じたある巾零リー群上の左不変微分作用素との関連を付けることにより総合的に考察し、対応する偏微分方程式の解の構造を明らかにすることが目的であった。そこでまず線形偏微分作用素の初期値問題が種々の関数空間で一意可解になる(適切である)ための作用素のクラスを特徴付ける問題に取り組んだ。双曲型作用素については無限階微分可能関数の空間を考える。この時、単独双曲型方程式の初期値問題が任意の低階に対して適切である作用素(強双曲型という)の特徴付けは1980年代になされ、効果的双曲型方程式と呼ばれるクラスが得られた。このクラスは狭義双曲型方程式のみならず2重特性根を持つような方程式も含んでおり、その特徴として解の滑らかさはデータの滑らかさに比べてたくさん失われ得る現象を有している。そこで逆にデータに比べて解の滑らかさの損失が最小であるエネルギー評価を持つクラスを抽出することにし、Maximally hyperbolic operatorsという概念を導入してこれを特徴付ける問題を考察した。ベクトル場から生成された偏微分作用素を余接空間上の超局所解析を用いて、2-step巾零Lie群上の不変微分作用素のユニタリ既約表現で近似する。そして問題をこの不変微分作用素に対する適切性とその摂動という2つに帰着させることにより、元の作用素に対するCauchy問題がMaximally hyperbolicになる為の十分条件を与えることができた。またベクトル場によって生成される作用素とNilpotent Lie群との関連についても考察した。さらにその延長として初期境界値問題への適用にも取り組んでいる。また複素ベクトルポテンシャルを持つシュレ-ディンガー方程式の初期値問題のL^2適切性の為の十分条件を得た。
|