平成6年度の研究目的は積分微分方程式系のパ-システンスと大域的安定性の解析であった。具体的には、 1.生物の増殖プロセスと物質のリサイクリングプロセスに時間遅れを導入したケモスタットモデル 2.伝染病の非感染者が保菌者から感染者に移行するプロセスに時間遅れの影響を考慮した疫学モデル を取り上げ、系のパ-システンスと大域的安定性に対して時間遅れが与える影響を解析した。ケモスタットモデルに関しては、新たに生物の増殖プロセスを生物学的に妥当な非線形関数を仮定することにより、系の大域的安定性が十分小さな時間遅れに対しては保障されること、また時間遅れの影響を少し増加させても系の局所的安定性は保たれることが示された。(11の最初の論文)。 疫学モデルに関しては、系の大域的安定性を保障する解集合を拡張することができた(11の第2の論文)。 ケモスタットモデルと疫学モデルにおいて、時間遅れの影響は特定の積分核の関数形を仮定しないで導入された。そのような一般的な積分微分方程式系に対して大域的安定性が証明されたことは評価できる。 ケモスタットモデルに関しては、時間遅れを大きくすると系のパ-システンスは保たれていても、平衡点が不安定となり周期解、カオス解が出現することが予想されるが、この点に関しては現在研究中である。 疫学モデルの安定条件を系の解集合全体へ拡張することも現在研究中である。また、このモデルにおいては全人口数が一定に保たれているが、この制限をはずした場合の解の挙動の変化に関しても今後研究を進める予定である。
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