本年度当該研究課題では、大別して2つの研究を行った。第一は、宇宙初期の背景輻射場とプラズマ間のトムソン散乱による摩擦力を受ける場合のブラックホールへのガス降着過程の研究である。これを調べるために、まず円盤質量降着と球対称質量降着の2つの場合に付いて定常問題として解析を行った。このとき、重力場として、中心天体重力場、ダ-クマタ-重力場を考えた。また、球対称の場合には自己重力も取り入れた。この研究で、ダ-クマタ-中の前期降着過程、自己重力が効いた中期降着過程、中心天体への後期降着過程それぞれについて定常解析解を求めることができた。これらの成果は、論文として発表された。また、ガス降着の時間スケールが、宇宙膨張の時間スケールよりも長くなる場合には、定常降着から外れていく。そこで、この様な場合についても解析するために、自己相似法を用いて、非定常円盤降着及び非定常球対称降着を調べた。その結果、両者の場合について自己相似解析解を見いだした。これらの成果も、論文として発表された。第2は、初期宇宙に形成された巨大ブラックホールによる宇宙の再電離の研究である。ブラックホール形成シナリオは、宇宙背景輻射による摩擦で角運動量を失ってガスが降着するβ円盤過程と、円盤内の粘性により角運動量を失うα円盤過程を組み合わせてモデルを構築した。この研究では、クェーサーのスペクトルから分かっている遠方宇宙の電離度や、背景紫外線輻射量と対比することで、モデルの整合性を解析した。そして、これらの観測を無矛盾に説明できる宇宙初期密度ゆらぎの形を求めることができた。この成果は、現在論文として印刷中である。
|