研究概要 |
本研究計画は、原子核物理学における巨視的量子トンネル効果に関する理論の開発と現象の解明を目的としている。平成8年度は、特に、重い重イオン間の核融合反応機構の解明に大きな研究成果をあげる事ができた。具体的内容は以下の通りである。(1)表面振動の高次の結合効果:クーロン障壁以下での^<64>Ni+^<92,96>Zr核融合反応に対する原子核の表面振動の効果を結合チャネル法を用いて解析し、通常用いられる線形結合を越えた高次の結合効果が、核融合断面積の励起関数や、複合核の角運動量分布、角融合反応に対する障壁分布に大きな影響を及ぼし、それらに関する実験データを理論的に説明する上で極めて重要である事を示した。また、^<16>O+^<112>Cd,^<144>Smの核融合反応の解析を通して、非対称性の大きな系においても、高次の結合効果が重要である事を示した。(2)入射核励起の効果:^<40>Ca+^<194>Pt,^<192>Os及び^<16>O+^<144>Sm核融合反応を入射核の八重極振動励起の効果を高次まで取り入れた結合チャネル法で解析し、^<40>Caが入射核である場合の入射核の振動励起は、核融合反応に対する障壁分布の形を変えるが、^<16>Oの八重極振動励起は、障壁分布の形には影響せず単に平行移動をもたらすだけであることを示し、これまでの論文に見られた矛盾を解決した。(3)非調和振動効果:相互作用するボゾン模型を用いて^<16>O+^<144>Sm核融合反応を計算し、重イオン核融合反応に対する原子核の表面振動の影響における非調和振動効果を詳細に分析し、核融合に対する障壁分布の実験データを再現する為には、非調和効果を考慮することが不可欠であることを示した。逆に、重イオン核融合反応に対する障壁分布の解析を通して、原子核の表面振動における非調和性や、原子核の変形の符号に対する情報が得られる事を示した。
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