1.物質の究極の構成要素と現在考えられているクオークとグルオンは、単独では取り出すことができない「閉じ込め」という特異な性質を持っている。超高温では、この閉じ込めは破れると予想されているが、温度の上昇とともにクオークとグルオンがどのように振る舞いを変えていくのかは、いまだ明らかになっていない。このクオークとグルオンの性質を研究するもっとも強力な手段の一つとして、計算機による量子色力学の数値シミュレーションがある。これまでのシミュレーションは、主として量子色力学の「色」の自由度が打ち消しあって現れない「無色」の状態に対して行われてきた。しかしクオークやグルオンの伝播関数を直接に求めて、その振る舞いを調べるためには、「色」の自由度を持った状態を引き出すために「ゲージ固定」という操作を行わなければならないが、量子色力学のゲージ固定は一意的ではないということが明らかになってきた(グリボフ不定性)。 2.本研究においては、このグリボフ不定性を数値シミュレーションで正しく取り扱うアルゴリズムを研究し、そのプログラムを並列計算機の上に実装し、数値計算によってクオーク、グルオンの振る舞いを調べてきた。 3.プログラムを並列ベクトル計算機に実装し、その効率化をはかった。この成果にたいし、米国電気電子学会より「ゴ-ドンベル賞」を1995年12月に授与された。 4.グリボフ不定性をさけるアルゴリズムとして、ツバンチィガ-等による確率過程ゲージ固定法を数値計算に適したものに定式化し、テストを行い有効性を確認した。 5.現在続行中のシミュレーションによれば、グルオンは近距離では質量がゼロの粒子として振る舞い、遠距離になると質量が増大していくという、通常の自由粒子とはまったく異なった振る舞いをしめしている。
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