本研究の目的は、格子上の量子色力学に基づき各種のハドロン弱い相互作用遷移行列要素を求め、これによってCP非保存の問題など弱い相互作用を含む素粒子標準模型全般に関わる問題の理解を深めることにある。 平成6年度に於いては、行列要素の計算法の検討を行った。特にsea quark効果の計算方法として前年度に開発したゲージ固定なしウォールソース法を用いて、π-Nシグマ項及びクォークの陽子スピンへの寄与の大きさの計算を行い、量子色力学によって実験値を説明することができることを強く示唆する結果を得た。これと平行して、年度後半からは、平成7年1月にKEKに設置が予定されたVPP500/80用のコード開発を行い、1月からは同計算機上での弱い相互作用遷移行列要素計算の準備計算を行った。 平成7年度には、年度当初からVPP上での計算が本格化し、各種の行列要素の計算を精力的に推進している。現在までに得られた成果の状況は以下のとおりである。(1)CP非保存の研究上重要なK中間子のBパラメータについて、Kogut-Susskindクォーク作用による計算を6つの格子間隔に対して行い、あと一点の計算を持って連続極限への精密な外挿を行うことを予定している。また、同じくBパラメータのWilsonクォーク作用による計算のため、chiral Ward等式に基づく方法をこの一年をかけて開発し、平成7年末より本格計算に入っている。以上の計算により、各種系統誤差を精密に評価したBパラメータの導出にかなり近づいたと考える。 (2)Bパラメータと並んで重要なB中間子の崩壊定数の計算をWilsonクォーク作用を用いて押し進めた。特に、統計誤差の問題の改善のために、拡がりを持つ中間子ソースの方法に検討を加え、平成7年末より本格計算に入った。(3)平成6年度より検討を行ってきた、有限格子間隔の効果を小さくするよう改善されたクォーク作用(Clover型作用)による行列要素計算の準備を整え、(2)の計算が終了次第開始を予定している。 以上の計算は順調に進歩しており、来年度当初から前半にかけて最終結果を発表できると考えている。また中間結果は平成7年度格子場理論国際会議等で発表している。全体として、VPPの計算力と相俟って本研究の目標は着実に達成されつつあり、来年度以降一層の進展を期待できる状況であると考えている。
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