研究概要 |
最近の原子核を相対論的に記述する試みの目的は、これから実験的研究が可能になる高エネルギー現象の理解に備えることと、従来の非相対論的理解とQCDとの関係を探ることにある。これらの試みの中で、今までの非相対論的的な、模型を一歩進める模型として、原子核を核子と中間子からなる相対論的多体系とする模型が提唱された。これまで、原子核は現象論的な2体の相互作用を仮定することにより理解され、その相互作用は核子間の中間子交換によるものと考えられてきたからである。実際、その模型は低エネルギー現象から中高エネルギー現象まで、多くの現象を見事に説明した。しかし、この模型は大きな問題を抱えている。それは低エネルギー現象の理解において、今までの非相対論的模型に帰着せず、原子核の核子密度や結合エネルギーの説明においても,相対論的な効果が本質的なはたらきをしているからである。 そこで我々は相対論的模型に特有な現象を探し、非相対論的模型との違いが実験的に明らかになるような研究対象を求め、その一つに和則があることを見いだした。非相対論的模型であれば成り立たなければならない共通の法則、和則がある。その和則が実験的に破れていることが証明されれば、非相対論的模型は成立しないことになる。我々はある和則は相対論的模型と非相対論的模型で大きな違いを示すことを明らかにした。それはクーロン和則と呼ばれるもので、高運動量移行を伴う電子散乱にに対する原子核の応答関数を原子核の励起エネルギーで積分したものである。非相対論的模型では、運動領移行が500MeV以上になるとその値は原子核に含まれる陽子の数にならなければならない。一方、相対論的模型は全く異なる値を示し、運動量移行が1GeV付近では陽子数の50%程度の値にしかならない。その減少の原因はディラック海の効果、即ち核子-反核子相関による。これは非相対論的模型にはない相対論的模型に特有なものであり、その違いが実験的に確かめられれば二つの模型の関係が明白になることを示した。
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