今年度の研究は、前年度に引き続きK中間子凝縮と中性子星の現象、超新星物質の性質と原始中性子星の問題に関して行われた。とりわけ前者については中性子星の静的な全体的性質、動的な過程および熱的な進化との関連で幅広く多くの成果があった。 K中間子凝縮相をカイラル対称性を基礎に研究を進め、二次の摂動効果を自然に考慮することにより、現実のKN散乱データを記述できる枠組みであることを示し、相対論的平均場の理論を援用することによって核媒質中でのK中間子の励起エネルギーを考察した。ついでこれらの結果を基に実験室での様々なデータと両立し得る形で、中性子星物質中でのK中間子相に対する状態方程式を得た。この状態方程式はこれまでの研究に比べていちばん洗練されたものである。状態方程式の軟化は中性子星の内部構造に大きな影響をもたらせ、物質の化学組成、中性子星の最大質量、半径、慢性モーメントを大きく変化させ、極端な例では大きな一次相転移をひきおこすことがわかった。この一次相転移に伴う動的な性質として、準安定状態から安定状態への小崩壊がおこるが、そのときのエネルギー解放量を見積もり、最近観測が進んでいるガンマ線バースト現象との関連を議論した。 K凝縮と中性子星の熱的進化との関連では、表面温度についての観測が進んでいる年齢の中性子星内部の核子超流動が重要になってくるが、芯領域にK凝縮相が存在し、陽子混在度が増加した際に超流動がどのようになるのか研究した。結果として、そのような状況では中性子、陽子が共にp波対相互作用に寄与するが、高密度領域で核子有効質量が例外的に大きくならなければ、超流体の存在はありそうにないことが示された。 その他、各種中間子凝縮相でのニュートリノ放出による冷却率に対する従来の結果に系統的に因子2の間違いがあったことを指摘し、修正した。
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