研究成果は大要次のようにまとめられる。 1.π凝縮と中性子星の熱的進化:π凝縮による中性子星の急冷却と核子超流動の効果を考慮し現実的な数値シミュレーションにより、冷却の全体的な様相を説明できることを示した。また、もしもアキシオンが存在すれば、π凝縮下では特徴的な温度の4乗依存性をもたらし、老年期段階の中性子星では光放出による冷却と競合しうることを明らかにした。 2.誕生初期の原始中性子星の性質:原始中性子星内部に存在する超新星物質を現実的に扱い得る理論的枠組みを初めて構成し、その物質組成、状態方程式を与えた。この結果に基づき、中性子星は誕生期には半径が大きく、内部にいくほど高温の温度分布をもち、冷えていくと半径が収縮することを示した。そのことから、初期の中性子星の質量と回転速度に新しい制限を与えた。 3.K凝縮と中性子星の性質、現象:中性子星の芯領域にK凝縮が顕在化した状態を記述する理論的枠組みをカイラル対称性を基礎に構成し、凝縮相の発展の様相、化学組成を明らかにした。さらに、凝縮相を現実的に取扱うために、相対論的平均場理論を援用して状態方程式を得た。その結果、K凝縮は高密度領域で抑制されることがわかった。これらの結果をもとに質量、半径等の全体的な性質、相転移に伴う動的な過程の特徴を明らかにし、ガンマ線バースト、ミニブラックホールシナリオとの関連を議論した。 4.K凝縮と熱的進化:K凝縮相では陽子混在度が大きくなるために、直接URCA過程がおこる可能性が予測されたが、検討の結果電子の化学ポテンシャルの急激な減少のため、限られた密度領域でのみ可能であることを明らかにした。またK凝縮下での核子超流動の可能性が検討され、陽子混在は有利に働くが、高密度では核子の有効質量が大きく減少するので難しいことがわかった。 その他、中間子凝縮相でのニュートリノ放出による冷却率に対する従来の結果に系統的に因子2の間違いがあったことを指摘し、修正した。
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