高エネルギー核反応において多重発生する中間子の粒子源の時空的形状を測定する実験的手段として、量子力学的な干渉効果によって引き起こされる2同種粒子の運動量相関(Hanbury-Brown・Twiss効果)を利用できることは良く知られているが、我々の研究は、いままで無視されていたパイ中間子とその放出源との終状態相互作用がこの運動量相関を大きく変え得ることを示した。その詳細は、終状態相互作用の形態に依るが、例えばクォーク・グルオン-プラズマの様な強い吸収体の場合、干渉に必要な一方の2体振幅の減衰により運動量相関が一般に弱められることがわかった。これは放出源の形状以外の性質に関する情報を2粒子相関のデータからとりだし得ることを意味し、これからの実験データの解析に極めて有用な結果である。この研究は、米国カリフォルニア工科大学のM.-C.Chu博士、同インディアナ大学のS.Gardner博士、及びカリフォルニア州立大学の関亮三教授との共同研究であり、その成果は共著でPhys.Rev.誌に発表した。 また、今年度の研究のもう一つの成果として、カイラル対称性の自発的破れの動的過程を、秩序パラメーター(シグマ中間子場の期待値)の成長によって特徴づけられる真空への散逸・緩和過程として捉え、He^4のラムダ転移の記述に導入されたLandau-Khalatnikovの運動論的方程式の拡張による現象論的定式化を行った。この運動論的方程式には、凝縮体の成長にともなって吐き出される余分な凝縮エネルギーの内部熱エネルギーへの散逸の早さを決めるパラメーターが含まれているが、その線形シグマ模型による微視的な計算を現在検討中である。
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