研究概要 |
提出した計画通りLEPおよびFermilab-Tevatronのデータを用いて電弱理論の精密解析を行った。この分析に大きな影響を与えたのは、Wボソンの質量についての新しいデータおよびTevatronのCDFグループによるトップクォーク対生成の証拠の発表である。これによればM_W=80.23±0.18GeVおよびm_t=174±17GeVである。筆者は、すでに10年以上前に、当時のデータを用いm_t<250GeVという予測をしたが、これは上記のCDFの報告に合致しており、本計画の基礎となっている分析方法に対する強い支持と考えることができる。これらの数値を解析に取り入れた結果、(1)電弱輻射補正について、単に補正項全体の検証だけでなく、その構造に関してもかなり詳しい情報が得られ、特にこの理論の大きな特徴であるフェルミ粒子の質量生成機構(フェルミ粒子質量に比例する湯川結合定数を用いてのヒッグス機構)を最新のデータは強く支持していること、(2)しかし、一方では、現在のW,Zのデータも総合すると、唯一未確認であるヒッグスボソンの質量の最適値が1TeV以上という異常な事態に陥ってしまうことがわかった。しかも、Zの崩壊幅やe^+e^-→Z→ff^^-反応における種々の非対称性などの他の多くのデータは軽いヒッグス(300GeV程度以下)を支持している。この食い違いが、何か新しい物理の存在を本当に示唆しているのかどうかを調べるのは今後の課題である。
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