研究概要 |
閉じた多様体上での量子化および量子論の問題は、これまで僅かにDiracによる正準形式の拡張に基づく研究があるのみで、より基本的な研究は最近われわれを含む何人かにより独立のアイディアのもとに展開された。われわれは、昨年度までの研究成果に基づき、D次元球面と位相同型な歪んだD次元曲面上の量子論の基本代数およびその表現論を、本年度に入ってほぼ完成することができた。これは、コセット空間の誘導表現論からは扱いのかなり難しい問題であるが、われわれは別の視点からこの問題をアタックした。その結果分かったことは、D次元球面と歪んだ曲面をつなぐdiffeomorphicな写像のうちにArea preservingとも言うべきものが存在して、これが内積の定義等に関し、量子論の基盤を与える上で決定的な役割を果たしているということであった。目下この仕事の詰めを急いでいるが、これまで殆ど手が付けられなかった問題だけにわれわれの結果は重要と思っており、一部数学の人からもすでに関心が寄せられている。他方、球面の場合、各次元にわたりゲージポテンシャルのトポロジカルな性質が明確にできたことも本年度の成果である。これはいくつかの国際学会で講演する機会を得たが、量子力学の基礎的問題に関心のある人達、例えばAharonov.Barut,Y.S.Wuなどからは強い興味が寄せられた。表現論という純粋に代数的なわれわれのアプローチがトポロジーという異分野の数学に関連しているいう結果には、恐らく深い意味があると思われるが、その解明は今後の興味ある課題の一つである。なお6月には、われわれの議論を含む「マニフォールド上の量子化および量子論」に関し、京大基礎物理学研究所で短期研究会が開かれて、予期以上の参加者のもとに活発な討論が行なわれ、われわれのアプローチに興味を持つ人の多いことを知った。
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