平成7年度は、初年度に完成した定式化および数値計算プログラムを用いて、本格的な計算および解析的考察を行い、以下のような成果を挙げた。 (1)時間のあらわな関数としての準位交差。 素励起系(フォノン)の代表的エネルギーhω、相互作用定数S および温度Tとするとき、高温弱結合(S<<1/k_BT/hω>>1)、低温強結合(S>>1/k_BT/hω<<1)の二つの典型的な場合が存在する。前者においては、量子摩擦の存在はエネルギー揺らぎを通して「位相の緩和」をもたらし、これはみかけの非断熱性を高める。後者においては、エネルギー散逸が支配的となり、下の準位への遷移確率を高める。また、ゆっくり通過の極限において、交差領域において一時的熱平衡状態が実現するため、交差領域通過後の分岐比が、上下どちらの準位から出発したかによらず、通過後の上下関係だけで決まってしまう現象を見い出した。 (2)ポテンシャル交差系における非断熱遷移。 二つの断熱ポテンシャルが交差しているような強結合電子フォノン系における非平衡状態からの無輻射遷移も、同じモデルにより調べられる。相互作用モードのフォノン波束が、非平衡コヒーレント状態から運動を開始するとして、動力学的ポテンシャル交差系の無輻射遷移確率を計算した。初期電子状態から他方の電子状態へ乗り移っている確率は、時間関数として、ホットな状態でのLandau-Zenr型の段階関数的増大から、緩和励起状態に落ち着いてからの、熱励起およびトンネル効果によるゆっくりした指数関数型増大へと移り変わる。F-中心などにみられる発光効率の励起エネルギー依存性は、このモデルによりほぼ説明できることを見い出した。 これらの成果は、物理学会、JRCAT研究会、光物性アジアシンポジウムなどにおいて発表し、さらに論文投稿準備中である。
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