共鳴インターバンドラマン散乱は大きいストークスシフトと広い幅が予想され、約5000cm^1程度の範囲を測定する必要が生じる。このために分散の小さなグレーテイングを購入し、現有のシングル分光器及び液体窒素冷却CCDカメラと励起レーザー光の漏れを除去するスーパーノッチフィルターと組み合わせることによって新しい超高速時間分解ラマン分光装置を構築した。この装置を用いて、典型的な半導体であるGeにおいて時間分解共鳴インターバンドラマン散乱の測定をおこなった。 まず、定常励起のもとでド-ピングしたサンプルや実験をおこない、Geにおいて観測される約1500cm^1近傍の散乱成分がライトホールバンド→へヴイ-ホールバンドの共鳴インターバンドラマン散乱であることを同定した(Phys.Rev.Bに論文発表)。次に散乱強度をフェムト秒の時間領域で時間領域で時間分解的にモニターすることによって、波数空間での共鳴位置に対応する正孔の占有数の時間変化を求めたところ、占有数は光励起後約2ピコ秒で増加することが明らかとなった。これは、光励起正孔の冷却過程を反映している。この実験結果を解析するために、数値演算能力の高いコンピューターを購入し、フォノン放出による光励起正孔の冷却過程のシュミレーション計算を行った。その結果、電子-格子相互作用の大きさをあらわすデフォメーションポテンッシャルとして1×10^9eV/cmが得られた。これらの結果に関しては投稿論文を準備中である。 また、InAsにおいても予備的な実験を行ったところ、1000cm^1〜2000cm^1の領域に正孔による電子ラマン散乱を観測した。今後、この散乱成分についても時間分解ラマン散乱の実験を行う予定である。
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