研究概要 |
カーボンナノチューブは天然に作られた擬1次元物質である.この研究では,有効質量近似をもとに,磁場中でのカーボンナノチューブの電子状態,特に光学スペクトル,格子振動との相互作用による格子歪,電子間相互作用,輸送現象などについて理論的に明らかにすることを目的とする. 第一年度である本年度は,カーボンナノチューブの電子状態を記述するWeylの方程式をもとに,有効質量近似の範囲で,磁場中のカーボンナノチューブの光吸収スペクトルを,反電場効果などを取り入れ,理論的に計算した.さらに,Kekule構造などの種々の格子歪みがある場合に,このWeyl方程式が相対論的な電子の運動を記述するDirac方程式になることを示し,それをもとに,格子歪みに対する厳密で解析的な式を得た.この格子歪みの大きさは,ナノチューブの直径が増大すると指数関数的に減少するため,通常のナノチューブではほとんど無視できる.しかし磁場中では,フェルミ準位付近にできる2次元グラファイトのランダウ準位の影響で格子歪みの効果が強調され,電子状態を大きく変化させる.これらの成果はすでに論文としてまとめられている. 実験的には,まだコントロールされたカーボンナノチューブの試料を作製しようしている段階であり,電子状態についての研究はまだそれほど進んでいない.ただ,最近この研究で理論的に予言されたアハラノフボ-ム効果を示唆する実験も報告され初めている.来年度は磁化や磁化率など具体的な実験が行われ始めた物理量を中心に理論的な研究をさらに発展させる予定である.
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