強誘電体 RbH_2PO_4(RDP)と反強誘電体 NH_4H_2PO_4(ADP)との混晶は異なる相互作用が競合している結晶であり、低温で電気双極子はどちらにも秩序配列できず任意の方向に凍結したグラス相が低温で出現する。我々はこのグラス相に極めて微小な励起準位((量子二準位系)が存在し電磁場を共鳴吸収すること及び非線型応答することを初めて示し、物理学会(1994年9月;3pY12)で報告した。 非晶質系に一般的に見られ、その後いくつかの結晶でも見出された量子二準位系は局在した準位差が1 μKから1 mK程度の極めて微小な励起状態であり、フォノンが凍結する1K以下の低温で初めて明瞭に測定される。通常、非線形効果はかなり大きな印加電場で初めて観測されるが、量子二準位系では微小な電場においても低温で本質的に現れる。RDP-ADPプロトングラス系における量子二準位系の フォノン系に対する緩和時間は0.1Kで0.3 msec程度であり、温度低下につれて急速に増加するため非線形応答が大きくなることを初めて観測した。この結果は緩和時間が低温で増加し、電磁波を共鳴吸収して励起された準位系が フォノン系へ緩和するのが間に合わなくなり飽和する傾向となるためと解釈される。 更に約 20Kのグラス転移点近傍で非線型誘電率が百倍以上に発散的に増大することを観測したがこれは磁性体以外では初めての報告である。 非線型応答の測定法として Bridge法を用いた。申請品の二相発振器で位相のそろった周波数f、3fを発振させ、fを試料に加えた。そして3fに対する応答を、3fを参照信号とする位相検波により求めた。微小な非線型成分を分離測定するため、基本周波数 fに対する大きな線型応答を7行の レシオトランスを用いた Bridgeで打ち消し、残りの信号の 3f成分を求めた。
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