本研究は、回転できる陰イオンが結晶格子をつくると格子中の陽イオンが超イオン伝導になる現象の原因を明らかにするために行われた。 複数の原子が結合して一つのイオンをつくると、そのイオン(多核イオン)は回転の自由度を持つために格子上にフォノンとよく似たリプロンという特別の励起ができる。一方、格子内のキャリアイオンは外乱を解消しようとしてイオン緩和モードという時間とともに減衰する波状ゆらぎをつくる。この両者が結晶内で共存するとある特別の結合が起こり、イオンは並進の自由度の獲得とキャリアの生成すなわち超イオン伝導状態になるとの見通しのもとに理論と実験の両面から研究を進めた。 実験では、超イオン伝導状態になると多核アニオンの向きが無秩序になりリブロンが崩壊することをX線その場構造解析、NMR測定、超音波吸収によって明らかにした。 理論研究では、リブロンと緩和モードの結合手段として長距離イオン輸送を起こす直接結合と局所イオン移送を起こす間接結合が存在することを明らかにし、それらの結合はさらに励起とイオン集団の波乗り結合として一般化できることを明らかにした。この発見によって、回転アニオンを含まない通常の超イオン伝導についても、フォノン-キャリア波乗り結合による超イオン伝導の生成という一般理論に到達した。 キャリアイオンはいつもフォノンと共存しており、イオン輸送の原因はフォノンといえる。この点でフォノンによるイオン輸送の手段と機構を発見した意義は大きい。
|