角度分解光電子分光スペクトルは固体の電子のバンド構造を調べるために、ほとんど唯一の実験手段として広く用いられているが、実際には試料の表面にかなり敏感であり、バルクのバンド構造とはいえない情報がスペクトルに多く含まれている。そのため、ニッケルや銅といった、古くから典型的は物質として広く研究されていてポテンシャルも良く知られている物質でも、計算された光電子分光スペクトルは必ずしも実験と完全には一致しない。よりよい一致を求めるためにはよりよいポテンシャルが必要で、それもバルクでより詳しくポテンシャルを求めるよりも、表面付近という条件で各原子のポテンシャルを求めることが肝要である。 本研究では、LAPW法に基づいて表面付近のポテンシャルをセルフコンシステントにもとめ、それを角度分解光電子分光シミュレーションのプログラムに代入して計算されたスペクトルを実験と比較する。セルフコンシステントも求めるときには、どうしても周期的スラブ模型を仮定せざるを得ない。まず3層のスラブで計算を実行し、そのポテンシャルを実験と比べたところ、ピーク一はともかく、スペクトルの形状は全く実験とあわないことがわかった。従って、光電子スペクトルの比較は電子状態の計算のチェックとして有効であることが確認できた。次の年度では、ソフトウェア的、バ-ドウェア的準備も整ったので、7層、9層とさらに厚いスラブ計算を行う。
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