中性イオン性転移は温度降下や圧力印加により、交互積層した、中性のドナー(D)分子から中性のアクセプター(A)分子へ、電荷移動を生じ、イオン性結晶へと相転移を起こす現象である。現在に到るまで、中性イオン性転移については、次のような標準モデルで理解されてきている。 すなわち、電荷移動には、格子収縮によるマ-デルングエネルギーの増加が関わっている。電荷移動に伴い、イオン性相では個々の分子の電子構造は開核になりスピンを持つ。このスピンには一次元スピンパイエルス不安定性が働き、分子二量体化を起こしてスピンは一重項状態になる。前段の電荷移動については、現在までに確証が得られているが、後段のスピンパイエルス不安定性による、分子二量体化は、間接的な情報にとどまり、具体的な分子変位は全くわかっていなかった。 本年度は、温度降下により中性イオン性転移を起こす二種類の錯体TTF-CAとDMTTF-CAについて低温構造解析をおこなった。良く似た交互積層を持つ両錯体について、分子二量体化の変位量、電荷移動量の変化などに共通する性質を多く見いだした。 しかし、TTF-CAでは転移点以下で、空間群がP2_1/nからPnに変化し、試料がすべてイオン性になり、分子二量体化が巨視的にオーダーすることがわかった。他方DMTTF-CAでは、電荷移動も二量体化もない中性部分と、両方ともあるイオン性部分が混在していることがわかった。この動性の差は、一次元DA鎖間の静電的相互作用によるものとして理解できることがわかった。
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