本研究代表者が完全性の高いKH_2PO_4(KDP)結晶中に見いだした180゚強誘電分域構造は、分域壁に垂直な方向に周期的であり、5分割カントール集合のプレフラクタルのうち第0〜第3の4つの世代によって特徴付けられる。このような、互いに自己相似性を示す分域構造(5等分中抜き構造)の形成過程において、反電場に起因する静電エネルギーU_Eと分域壁の表面エネルギー密度に起因する分域壁エネルギーU_Wが共に重要な役割をしていることが理論的に予言されている。また、同時に、5等分中抜き構造の周期の平衡値は結晶板の厚みdの1/2乗に比例することが予言されている。本年度は、上記の研究課題について次に述べる研究業績(1)と(2)を上げることができた。 (1)KDP結晶の完全性が高い領域から分極軸に垂直な方向に0.07mm≦d≦4.37mmの厚みを持つ7枚の結晶板を切り出し、それらに123K以下で形成される第0〜第3世代の5等分中抜き構造を偏光顕微鏡観察した。その結果、KDPの分域構造として従来報告されていたものは全て5等分中抜き構造の第0世代に対応しており、今回の分解能が高い観察によって、実際の分域は第1〜第3世代に対応する複雑な構造をしていることが明らかになった。 (2)(1)の結果を集計することによって、5等分中抜き構造の周期は結晶の厚みdの1/2乗に比例しており、上記の理論的予想と一致していることが分かった。このことから、U_EとU_Wの両方が5等分中抜き構造の形成と安定化に寄与していることが実験的に証明された。
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