研究概要 |
結晶内原子の異常散乱因子は、吸収端近傍でXANESやEXAFSが現れるように、固体の結合効果の影響から自由原子モデルの理論計算とは異なる。そして、その相違は、実験上の困難さから、現在のところ明確な実験データが不足している。当研究の目的は、Si,Ge,GaAs,GaSb,InP,InSbなどの半導体結晶やCuのひげ結晶を用いて吸収端近傍のX線共鳴散乱によるペンデルビート(PBXRS)の測定から異常散乱因子を求め、理論計算と比較、検討することである。 平成6年度は、理論的検討、実験装置の整備、試料作成及び予備実験を行った。PBXRSは、構成原子、反射指数、試料の厚さなどの測定条件が整わなければ観測が困難であることから、PBXRSが最も顕著に観測できる条件を吸収を考慮した動力学理論を用いて理論的に考察した。その結果、実験が行い易い10keV付近に吸収端があるGeの420,440,620,844反射,GaAsの200、420、600反射が有力であることが分かった。実験装置の整備は、埼玉工業大学とKEK-PFで当研究で使用するエネルギー分散型計測システムを作成した。また、吸収端近傍を精度よく測定するための微少回転機構(最小角度ステップ0.02秒)を4円回折計のφ軸上に作製した。この装置の性能試験と予備実験を兼ねて、埼玉工業大学では、Ge 420,440,642反射、GaAs 600反射、KEK-PFでは、Ge 844反射、GaAs 200反射のPBXRSの測定を行った。特に、KEK-PFのGe 844反射のPBXRSの測定で、吸収端の極近く(吸収端より約-3eV)に従来の動力学理論計算では現れない強度変化が生じていることを観測した。これは、その後の考察から、f^0+f=0つまり原子散乱因子の虚数部のみによる回折であることが分かった。これについては、さらに研究を進めている。
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