巨大磁気抵抗効果で知られているFe/Cr人工格子を、異なる基盤上に成長させて、界面の乱れ具合の異なる2種類の試料を得た。これらの試料に対して、日本原子力研究所、東海研究所の改3号に設置されている3軸型分光器TOPANを使って、非光学条件での中性子反射を観測することによって、界面の乱れの度合いを評価した。界面の乱れは、光学条件での反射のまわりに散漫散乱として現れる。この散漫散乱の強度が大きいほど、界面の乱れは大きいと考えられる。この実験結果と、磁気抵抗変化の大きさを比較したところ、界面の乱れが大きいほど、磁気抵抗変化も大きいという結論が得られた。また、界面の乱れは、光学条件での反射スペクトルにも影響を与える。光学条件の反射スペクトルが、どのように界面の乱れによって影響を受けるかを調べるために、高エネルギー物理学研究所、ブ-スター利用施設に設置されている、TOP分光器を用いて、反射スペクトルの測定を行った。反射スペクトルには、各界面で反射した中性子の干渉効果により、フリンジが現れるが、界面の乱れが大きいと思われる試料では、乱れが小さい試料よりも、フリンジが不明瞭になるのが観測された。 これらの実験データから、界面の乱れを定量的に評価するために、設備備品として購入した、ワークステーション上で、光学条件、非光学条件での反射スペクトルの計算プログラムを開発した。この計算では、界面や表面の乱れを、フラクタルとして記述することによって、定量的に扱う手法を採用した。現在、光学条件での反射スペクトルを任意の構造をもつ人工格子に対して計算できるところまで、完成しており、実験データとの比較を最小二乗法によって行えるように、プログラムの改良を加えているところである。
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