今年度は、前年度に引き続き、Fe/Cr人工格子の反射率測定を行うとともに、新たに、豊田中央研究所よりCo/Cu人工格子の試料提供をうけ、巨大磁気抵抗効果と界面の乱れとの関連について調べた。新たに提供を受けたCo/Cuは、Fe/Crが基盤の違いにより界面の状態を変化させたものであるのに対し、試料作成時に界面においてCoとCuの混合層を作り、その厚さを変化させることによって、界面の乱れを制御したものである。試料は、Si基盤の上に[Co(1.0-t_-mix)/CoCu(t_-mix)/Cu(2.2-t_-mix/CoCu(t_-mix)]を15回積層したもので、混合層の厚さ、t_-mix(nm)、は、0、0.10、0.15、0.25の4種類である。これらの試料の中性子反射率の測定を高エネ研のブ-スター利用施設に設置されている、偏極冷中性子散乱装置、TOPを用いて行った。年度の途中でビームが止まったこともあって、まだ、十分な測定が行われていないので、最終的な結論を出すにいたっていないが、反射率プロファイルが、混合層の厚さとともに変化することが確認された。ただし、Fe/Crの場合のような、反射率の大きな偏かは観測されなかった。現在、この中性子散乱実験に用いた試料の磁気抵抗測定の準備を進めているところである。 反射率の計算プログラムは、フォートランでの開発は、ほぼ終了した。今のところ、分解能を取り入れた反射率の波長依存性を計算することができ、界面の乱れの少ないFe/Cr、Co/Cu、あるいは、標準物質であるNiミラー等の実験と、このプログラムを用いた計算の一致は、非常によい。ただし、混合層の厚さを、計算の際のパラメーターとして取り込んでも、上述の実験結果に見られるような変化を再現することができず、何らかの方法で、これらの影響を正しく計算に取り込む必要がある。現在、界面でのステップを考慮することで、界面の乱れを反射率に取り入れるプログラムを開発中である。
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