イジング反強磁性体の磁場誘起一次相転移によって形成される新しい秩序相の時間発展を調べるために、メタ磁性体FeTiO_3及びそのランダム希釈化合物Fe_xMg_<1-x>TiO_3を対象として、メタ磁性転移点近傍での磁場急変に伴う磁化の時間変化を測定した。研究経過は以下の通りである。 1.Feの濃度xが異なる種々の多結晶及び単結晶試料を作製し、その格子定数及び磁気転移温度等の基礎的物性を測定した。その結果、ネ-ル温度T_Nはxの増加とともに単調に減少するが、パーコレーション濃度x=0.25付近の組成をもつ試料において、磁場中冷却効果や長時間緩和などのスピングラス的振舞いが観測されることを見出した。 2.1.5Kから10Kの間の種々の温度において、外部磁場をメタ磁性転移磁場H_cの直下(直上)の値H_0からH_cを上回る(下回る)値H_fまで急変させた後の磁化の時間変化を測定した結果、以下のことが明らかになった。 (1)磁化の緩和の速さは温度T及び非平衡度Δ=|H_c-H_f|に強く依存し、T及びΔが小さいほど新秩序相の形成が遅くなる。 (2)x=0の球形試料での実験から、H_c<H_f<H_c′=83.2kOeのときには、磁場急変後に充分時間が経過しても新秩序相の形成は完了せず、旧秩序相との二相共存状態が安定になることがわかった。これは反磁場の効果によって試料内部の有効磁場が磁化の増加と共に減少し、非平衡度Δが時間と共に小さくなるためとして説明できることがわかった。 (3)新秩序相が反強磁性相の場合は、強磁性相の場合に比較して秩序形成速度がより遅くなることがわかった。この現象と反強磁性相の核発生時におけるフラストレーション及び逆位相磁区境界の移動過程との関連について考察した。 3.ストレイゲージ法を用いた磁歪測定を行った結果、x=0においてc軸長がメタ磁性転移に伴って1×10^<-4>不連続に変化することを確認した。
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