希土類元素(R)を含む鉄化合物R_2Fe_<17>やRFe_<12>に窒素(N)や炭素(C)を侵入させたR_2Fe_<17>(C)_3やRFe_<12>N(C)では、磁化の大きさが増加し、キュリー温度が約2倍高くなるだけでなく、適当にRイオンを選ぶと強い一軸磁気異方性が発現することが分かっている。本研究では、このような強い一軸磁気異方性の起源を電子論的に明らかにするために、GdCo_5、GdFe_<12>N、Gd_2Fe_<17>、Gd_2Fe_<17>N_3の電子構造を、局所密度近似の枠内で、現在最も信頼できる計算方法であるFLAPW法によって計算し、各イオンの周りの電子(電荷)密度分布を計算した。その結果次のようなことが明らかになった。 (1)現在最も優れた永久磁石材料とされているSmCo_5の場合、c軸方向に、Sm(Gd)イオン間に大きな隙間があり、ここの電荷密度は非常に低くなっている。他方、c軸に垂直な面内では、Sm(Gd)イオンは6個のCoイオンで囲まれていて、Sm-Co間の強い共有結合により、この方向に電荷密度が高くなっている。このようなSmイオンの周りの異方的な電荷分布の結果、Sm(Gd)イオンの周りに大きな結晶場が生じ、この結晶場とSmイオンの電荷分布の形との相互作用によって、Coイオンの磁気モーメントがSmイオンのf電子のスピン一軌道相互作用を介して空間的に固定され、強い一軸磁気異方性が発現することを定量的に解明した。 (2)Sm_2Fe_<17>N_3やNdFe_<12>Nのような侵入型希土類化合物の場合には、Rイオンとその周りのNイオンとの間に強い共有結合が存在し、Rイオンの周りでNイオンの方向に電子密度が高くなり、大きな結晶場を生じる。SmCo_5の場合と同様、この結晶場により、強い一軸磁気異方性が発現することを明らかにした。 以上の計算結果は、J.Phys.Soc.Japan Vol.63(1994)pp.1071-1080に発表されている。
|